それは冷え込みの厳しい冬の夜、午前二時を回った頃のことでした。寝る前に一度トイレを済ませようとした私は、水を流した後の異変に気づきました。いつもなら軽快に吸い込まれていくはずの水が、ゴボゴボという不気味な音を立てて逆流してきたのです。便器の縁ギリギリまで迫る汚水を見て、私の血の気は引きました。このままでは溢れ出してしまうという恐怖と、明日の朝からどうすればいいのかという不安が頭をよぎります。家の中にラバーカップはなく、かといってこの時間に営業しているホームセンターなど近所にはありません。スマートフォンの画面を震える指で操作し、二十四時間営業の文字を頼りに、私は近所のコンビニへと走り出しました。街灯の下を駆け抜けながら、頭の中では「コンビニにスッポンなんて売っているのだろうか」という疑念が渦巻いていました。おにぎりや飲み物ならいくらでもあるけれど、あんなにかさばる清掃道具を置いている自信はありません。一件目のコンビニに飛び込み、日用品のコーナーを隅から隅まで見渡しましたが、置いてあるのは洗剤やスポンジばかりです。肩を落として店を出ようとした時、ふとレジ横の棚の最下段に黒い影が見えました。しかしそれは期待したラバーカップではなく、単なるトイレブラシでした。絶望感が強まりましたが、諦めきれずに二件目の、少し路地に入った古い店舗へと向かいました。二件目の店に入ると、そこは生活感の漂う住宅街の店舗らしく、ゴミ袋や電球など、切羽詰まった時に必要になるアイテムが充実していました。そしてついに、清掃用具の棚の奥に、ビニールに包まれたその黒いゴムの塊を発見したのです。それは、洗練されたデザインとは程遠い、昔ながらの武骨なラバーカップでした。手に取った瞬間のずっしりとした重みは、これまでの不安を吹き飛ばすほどの安心感を与えてくれました。私は迷わずレジに運び、会計を済ませると、再び夜道を自宅へと急ぎました。店員さんは怪訝な顔もせず、日常の風景の一部であるかのように淡々とレジを打ってくれましたが、私にとっては命の恩人にさえ見えたものです。帰宅後、私は早速その「救世主」を便器に押し当てました。コンビニで手に入れた安価な製品でしたが、その吸引力は確かなものでした。二度、三度と強く押し引きを繰り返すと、突然「ズズズッ」という音とともに水が勢いよく吸い込まれていきました。静まり返った深夜のトイレに、本来の正常な流れが戻った瞬間です。私はその場でへなへなと座り込み、コンビニという存在のありがたさを噛みしめました。もしあの時、コンビニにラバーカップが置かれていなかったら、私は眠れぬ夜を過ごし、翌朝には高額な修理代を支払っていたことでしょう。私たちの何気ない日常は、コンビニの棚の片隅にある、こうした目立たない道具によって守られているのだと痛感した一夜でした。
深夜のトイレトラブルとコンビニで見つけた救世主