ある地方都市に住む七十代の夫婦が、将来の安全を見据えて実施した浴槽交換の事例をご紹介します。長年使ってきたタイル張りの浴室は、冬場は非常に寒く、浴槽の縁が高いために足を大きく上げなければ入ることができないという課題を抱えていました。旦那様が膝を痛めたことをきっかけに、安全に長く住み続けられる家づくりの一環として、浴室のプチリフォームを決意されました。今回の改修で最も重視されたのは、転倒事故を防ぐためのバリアフリー化です。まず、既存の古い深型の浴槽を撤去し、跨ぎ込みの高さが低い「ベンチ付き浴槽」を導入しました。この浴槽は、縁の一部がベンチのように座れる形状になっており、一度腰掛けてから足を一本ずつ入れることができるため、バランスを崩す心配がありません。素材は保温性に優れた高断熱の人工大理石を選びました。冬場のヒートショック現象を軽減するため、浴槽自体の断熱性能に加えて、浴室全体の壁にも断熱材を補強しました。さらに、浴槽の横と入り口付近にしっかりと握れる手すりを新設しました。床面も、濡れていても滑りにくい特殊加工が施されたシートに張り替えることで、足元の安全性を高めています。工事にあたっては、介護保険の住宅改修助成金を活用できるよう、ケアマネジャーと相談しながら進められました。自治体からの補助金を利用することで、自己負担額を抑えつつ質の高い改修を行うことができました。完成後、奥様からは、以前は億劫だった入浴が今では一番の楽しみになったという喜びの声をいただきました。お湯が冷めにくくなったため、追い焚きの回数が減り、光熱費の節約にも繋がっているそうです。また、旦那様も、膝への負担が少なくなり、一人でも安心して入浴できるようになったことに自信を持たれた様子でした。このように、浴槽交換をきっかけに浴室全体の安全性を見直すことは、高齢者の自立した生活を支えるだけでなく、家族全員の安心感にも直結します。単に古くなったものを新しくするだけでなく、住む人の体の変化に合わせた機能を付け加えることで、家はより豊かな居場所へと変わっていきます。この事例は、これからの高齢化社会において、リフォームが果たすべき重要な役割を象徴していると言えるでしょう。