それは、ごく普通の平日の朝のことでした。顔を洗うために洗面台の前に立った際、右足の下で「ミシッ」という、これまで聞いたことのない不気味な音が響きました。我が家は築十年を過ぎたばかりで、まだ床が軋むような時期ではないはずだという思い込みがあり、その時は深く考えませんでした。しかし、それから数日経つと、洗面所に入るたびに雨上がりの土のような、あるいは古い雑巾が湿ったまま放置されたような、嫌な匂いが鼻を突くようになったのです。芳香剤を置いても解決せず、不審に思って洗面台の下の扉を開けてみました。中には洗剤のボトルが整然と並んでおり、水漏れの形跡などどこにもないように見えました。ところが、底板の隅にある配管の隙間に指を差し込んでみると、指先がひんやりと濡れ、引き抜いた指には黒い泥のような汚れが付着していました。慌てて近所の水道業者に連絡し、床下点検口から潜ってもらうと、業者の方が放った言葉に耳を疑いました。「奥さん、これ、かなり前から漏れてますよ。床下が池のようになっています」というのです。原因は、シャワー引き出し式の水栓ホースの亀裂でした。シャワーを使うたびに、ホースを伝った水が収納の奥へと滴り落ち、それが床の隙間を通って床下へと蓄積されていたのです。床下の断熱材は水を吸って重く垂れ下がり、周囲の木材には見たこともないような巨大なカビの塊ができていました。修理費用としての見積もり額は、単なるパッキン交換のレベルを遥かに超え、目の前が真っ暗になるような金額でした。もしあの時、床の軋みや匂いを「気のせい」で済ませていなかったらと、後悔の念が押し寄せました。見えない場所で起きる水漏れは、私たちの平穏な日常を足元から崩していく、まさに静かなる災害なのだと痛感した出来事でした。床の感触や臭いという五感で感じる異変は、家からの切実な警告でした。修理には配管の交換だけでなく、腐食した床材の張り替えや乾燥作業が必要になり、予想外の出費となりましたが、これを機に定期的な点検を欠かさないようにしています。皆様も、足元のわずかな違和感を決して放置しないでください。
洗面台の足元から漂う異臭と床の軋みで気づいた床下水漏れの恐怖体験